トレーニングカレッジクビラ田中昌彦氏トレーニング新時代の『自然体』トレーニングいま、クリーチャートレーニングが広がる理由

近年、学生スポーツの現場でも“トレーニング”という言葉は完全に定着しつつある。一昔前までは一般に知られなかったような理論や方法も、今や手軽な情報として得ることができるようになった。インターネットや雑誌、DVDなどがその一助となっていることもひとつの要因だろう。「プロがやっている」「最先端の科学から導かれた」といったトレーニングを、近所の中学生が行う時代がくるとは20年前には想像もできなかったはずだ。

 

筋力トレーニングを取り巻く時代の変化

しかしここにきて、筋力トレーニングそのものを見直す動きも出てきている。時間の問題や危険性など理由は様々だが、その効果自体を疑問視する声が上がってきているのである。東洋大学や浦和学院などの野球強豪校で指導を行う、トレーニングカレッジクビラの田中昌彦さんは次のように語る。

「前提として、筋トレは必要だと思います。ただし、きちんと必要なところを見極めて行わなければいけません。筋肉のバランスは選手によって違うのに、みんなが同じトレーニングをしていてはいけないのです。また“野球には下半身が重要”だといって、そこばかり闇雲に強化してもケガの原因になるだけです。」

 

部活での指導の場合、トレーニングに関してはメニューを与えて選手に一任しているケースが多い。仮にトレーナーを依頼している場合でも、月に数回の指導というのが現状で、毎日の練習は他の学校と大きな差はない。そんな状況下ではどうしても個体差を無視して、同じ種目を課すような仕組みが出来上がってしまう。

「初めは力がついてきて成果も出てくるのですが、続けているうちになぜか思うような結果が残せなくなってきます。最悪の場合は致命的なケガもしてしまう。当然でしょう、自ら体のバランスを崩すような練習をしているわけですから。たまたまそのトレーニングが合った選手だけが生き残るような博打を、続けていてはいけないと思いますね。」

 

時代の要請 クリーチャートレーニング

では、どのようなトレーニングなら継続した結果が望めるのか。田中さんが実際に各チームで指導を行う『クリーチャートレーニング』について話してくれた。

「クリーチャーというのは生き物ということ。要するに生き物の動きをトレーニングに生かしましょうということです。四つん這いになったり、手をついて跳ねてみたり。彼らは教えられたわけでもないのに、自然で無理のない動きをしています。これをヒントに作られたのがクリーチャートレーニングです。」

 

クリーチャートレーニング

手首を柔らかく使うことで、ひじや肩、肩甲骨も柔らかく使えるようになる

写真は『ライオン』という種目である。肩甲骨と骨盤、そして手首・足首を柔らかく使いながら四足で歩いていく。同時に体幹の固定を意識しながら行うことで、コアなどのインナーマッスルもトレーニングすることができるのだという。

ほかにも『ラッコ』や『孔雀』、『クラゲ』といった種目があり、それぞれ個の筋力を強化するというよりも、全身のバランスを意識している。ほとんど種目が自分の体重をコントロールするものであり、それが思いのほかきつい負荷となる。そしてクリーチャートレーニングの大きな特徴が“教えなくても自然に理想の体になる”という点にある。

「もちろん姿勢などは正す必要がありますが、クリーチャートレーニングをやっていると自然に体のバランスが取れてきます。股関節や肩甲骨が柔軟になり、体幹などの固定すべきところが強くなる。ああしろ、こうしろと言わなくても、体が勝手に適応していくイメージですね。」

 

ヒト本来の動きを取り戻す『自然体』の動きづくり

トレーニングではよく「使う筋肉を意識しなさい」といわれる。今、どこを鍛えているのか意識することで、より効果が高まるというのだ。しかし、これはあくまで『筋肉』そのものを鍛える場合であって、スポーツの動きを想定したときには逆効果となるケースもある。

「自然な動きというのは、筋肉を意識せずに筋肉が使われるときのこと。走っているときに足の筋肉を意識したり、バットを振るときに腕を意識したりしていちゃダメなんです。犬なんか見ても、なにも考えず本能のまま動くでしょう。あれが理想ですね。」

ヨーイドンで50m走を行う場合と、鬼ごっこみたいな状況で走った50mのタイムを比べると、意外な結果が出てくる。多くの場合、後者の方が断然速いタイムをたたき出すわけだが、これこそが田中さんのいう『自然』にあたる。

さらに、どんな人でも、元々自然な動きをしていた時期が存在していたという。

「赤ちゃんの頃は、誰もが自然な動きをしていました。どう動こうかと意識するわけでもなく、教えられるでもなく、全身を柔軟に使ってハイハイしますよね。そのとき、床を叩く音がドンドンではなく、パンパンとなる。大人も、自然な動きができるようになるとドタバタ走るようなことがなくなるはずです。」

 

クリーチャートレーニング

田中さんによる股割り。膝が前に出たり、腰が引けたりしてはいけない

田中さんによると、最近の子どもたちは股関節の割り(股割り)ができないことが多いという。また、足首が固い、足首がうまく使えないという子どもも多い。原因として生活習慣の違いという意見も挙げられるが、もう一つ“遊び不足”も大きいと話す。

「木に登ったり鬼ごっこをしたり、またボール遊びをしたりなんかすると、嫌でも股関節を使うんです。すると股割りくらい簡単だと思うんですが、今の子たちは経験がないからできない。だからトレーニングとして与えてやることが必要なんです。それも単にそこだけをストレッチするのではなく、遊びのように縦横無尽に動くのが理想。他の筋肉と一緒に連動させることで、より大きな効果が得られるわけです。」

人間にとって足首や股関節は可動性が求められる箇所であり、ここが動かないことでパフォーマンスに影響を与え、ケガのリスクも高くなる。動かないのならトレーニングで動くようにしなくてはいけないが、独立して考えるものではない。そこでたどり着いた先がクリーチャートレーニングだったというわけだ。教えなくてもできる、自分でコツをつかみながら行う方法だから、トレーナーがずっと見ている必要もない。遊びに近い形を体系化したものこそ、この時代には合っているのかもしれない。

 

クリーチャートレーニングの新たな試み

田中さんは最近、新しい試みとして『ビデオ診断&処方』を行っている。選手の動きをビデオに撮ってもらい、スムーズに動いていない箇所を診断したうえで、その選手により必要なクリーチャートレーニングを処方するというものだ。

「普通に行っても十分効果が得られるトレーニングですが、やはりその選手に合った動きを見極めた方がパフォーマンス向上につながります。強度を上げたものや、弱点の矯正など、個々のためのバリエーションもつけられるのでオススメですね。」

例えば投球動作のときにうまく股関節に乗り切れていない選手であれば、股関節周辺の柔軟性や体幹の固定を意識したメニューを処方する。かといって決して偏ったトレーニングになることもなく、危険も伴わないので安心して取り組むことができるという。

「最近ではプロ野球選手にもこの方法でトレーニングをやってもらっています。定期的にチェックができるので、習熟度を見るのにもいいですね。」

 “トレーニング”は様々な進化を遂げ、方法論もどんどん新しくなっている。指導者、選手は自分の置かれている状況や環境、そしてその効果を見極めて、取捨選択をしていかなくてはならない。その言葉が定着した今だからこそ、しっかりとした判断が必要なのだ。

【クリーチャートレーニング紹介サイト】 
http://kaatsu-kubira.co.jp/creature/original.html

田中昌彦氏DVDリンク

トレーニングカレッジクビラ田中昌彦氏

田中 昌彦(たなかまさひこ)

1961年兵庫県生まれ。トレーニングカレッジクビラ・代表取締役。プロ野球選手やNBA選手、K1選手、総合格闘技選手らのパーソナルトレーナーとして活動。独自のエクササイズ「クリーチャートレーニング」は全国各地の学校現場で取り入れられている。

田中昌彦氏インタビュー
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