九州共立大学教授木寺英史先生常歩動作をスポーツに生かす

 みなさんは“常歩”という言葉を、聞いたことがあるでしょうか。初めて見ると読むのも難しいかもしれませんが、このように書いて“なみあし”と読みます。馬がゆっくり歩くときの歩様を“なみあし”といい、それは体にとって自然な動きであり、つまりはムダのない動きとなります。この常歩の提唱者のひとりで、九州共立大学教授の木寺英史氏は次のように話します。
「これまで常識と考えられてきた動作に多くの錯覚や誤解が含まれていることが明らかになってきました。そこで、スポーツや武術の動作をさらに考察し、合理的な動作方法を提唱することにしました。」

 

力には「外の力」と「内の力」がある


九州共立大学教授木寺英史先生 ちょっと実験です。写真@のように腕を地面と水平になる位置まで持ち上げてみてください。この「腕を持ち上げる」という動きには、主に肩の筋肉が使われています。ではここから、体側の位置まで速く腕を下げてみてください。このときに使われる筋肉はどこになるでしょうか…。
 実際にやってみるとお分かりだと思いますが、自分の力、つまり筋肉を使わなくても腕を下げることができます。下げるというよりも、むしろ落ちるという感覚でしょうか。地球には重力がありますから、力を抜いても体を動かすことができるわけです。

 腕を上げることと下げること。これらの力はその性質が違います。ここでは、自らの意志で動かすものを「内力」、重力や地面からもらえる反力などを「外力」と呼ぶことにします。体を動かすという点では、内力というのは必須の要素となります。走るのも跳ぶのも投げるのも、筋肉を使って関節を動かして初めて達成されます。ところが、ことスポーツの動作においては、外力の使い方が重要なキーワードになってきます。よく「力むな!リラックスしろ」などというコーチの台詞を聞くことがありますが、これは要するに「内力に頼るな!うまく外力を使え」ということなのです。
 内力に頼った動きというのは一見力感にあふれ、パフォーマンスを発揮しているように感じますが、実は失速してしまうことが多いものです。オリンピックのスプリンターたちにしても、リラックスしているように見える選手の方が最後に伸びていきます。豪快なホームンランを打つ選手のスイングが、意外なほど軽く振っているように見えるのもこのためです。ここでは詳しく触れませんが、重心をうまくコントロールし、外力と内力を合理的な状態で使っているからこそ、できる芸当なのです。

 

常歩の動き、外力を剣道に生かす


九州共立大学教授木寺英史先生もちろん、剣道においても常歩の動きや外力というのは応用できます。特にそれが顕著に出るのが打突における「足さばき」です。現代剣道における足さばきというのは「送り足」が基本です。左足のかかとを上げ、つま先で地面を蹴って前への推進力にしていきます。対して常歩では「歩み足」という方法で足さばきを行います。その字のごとく、歩くような足さばきで打突を行うのが特徴です。送り足とは違い、左足のかかとを地面にしっかりとつけ、打突の際には右のひざを抜くようにして前に出ていきます。このとき左のかかとは「蹴る」のではなく「踏む」感覚で、同時に右ひざを抜くことによってうまく外力を使うことができるわけです。
以上のような動きを行うために様々な練習方法がありますが、まずはきちんと歩くことが必要です。歩み足による打突というのは、歩くこととほぼ同じ動きになりますから、これさえできていればそんなに難しいことではありません。ただし、ここでいう歩行は「常歩」ということになります。体幹の使い方や足の向きなど、現代人が行っている歩行とは若干違ったものになっています。詳しくはDVDのなかで解説していますので、動画を見ながら理解を深めていってください。

 ここで触れたように、常歩を取り入れることでスポーツの動作はより合理的になっていきます。真に強く、疲れず、ケガをしない。そして見た目にも「美しい」動作は、外力をうまく使うことによって生まれます。今一度、自分の動きや指導している選手の動きを確認してみてください。ひょっとしたらその動きは内力に頼っているものかもしれません。

文責:渋谷亮(ジャパンライム)
出展:常歩(なみあし)身体研究所


九州共立大学教授木寺英史先生

木寺 英史(きでらえいし)

九州共立大学スポーツ学部准教授。剣道の稽古中、アキレス腱を断裂したことにより合理的身体操作を追求する。常歩(なみあし)身体研究所代表。著書に「本当のナンバ常歩」(スキージャーナル)・「剣士なら知っておきたいからだのこと」(大修館書店)など。

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