水戸女子吹奏楽木村達也先生 発問で生徒の中から表現力を引き出す曲作り

関東以北に所属する小編成バンドにとって最高峰のステージとなるのが東日本学校吹奏楽大会だ。
この大会において2年連続金賞を受賞し、小編成部門で大きな注目を集めているのが,
茨城県にある水戸女子高等学校吹奏楽部。今回は8年前に部員11人という状態から指導を受け持ち、
大躍進の原動力ともなった指揮者の木村達也先生に曲づくりについて伺った。

 

曲の合わせ練習は何から始められますか?

最初はとにかく通せるようになること、そして通して聞いていて違和感を覚える部分やなんだか嫌だなと思った点を見つけます。ポイントは出来るだけお客様や審査員の視点で聴くことです。テンポ感なのか、音程なのか、 抑揚のなさなのか等いろいろな可能性があると思いますが、指揮を振りながらでは音が聞けないということであれば、生徒だけでアンサンブルで吹いてもらって聴くのも良いと思います。

 

器楽未経験者や初心者の指導者の場合はどうすればよいでしょうか?

  そうですね。もし問題点がわ からなければ、生徒に「今の部分でもっとこうしたほうがいいと感じたことはない?」と聞いてみるのがいいと思います。「縦のラインが合っていなかったと思う。」、「主旋律とのバランスがよくなかった。」等、意見がでてくるでしょう。生徒が意見を言いやすい環境を作ることも大切です。 水戸女子高校吹奏楽木村達也先生

指導者も部員も未経験ということであれば、バンドディレクターや合奏指導のできる知り合いの先生に来てもらってはどうでしょうか? 毎月ではお金も大変ですから、1回や2回だけでもいいので音を判断したり練習内容を見てもらったりすると、指導者も生徒もレベルアップが早いと思います。効果的にレッスンを受けるために、何を知りたいか指導者側も、生徒側も学ぶ内容を共に考えておくと良いでしょう。生徒と一緒に成長していこう!という気持ちを持つことが重要だと思います。

 

水戸女子で曲づくりの際に工夫されていることはありますか?

  曲づくりを始める前に、審査員の方の講評や観客の方の感想にこんなことを書いてほしい、ということをメンバーで共有したりしています。例えば「情熱的な演奏で感動しました」と書いてほしいと考えるのであれば、実際の曲づくりの際には、“情熱的な演奏”だと感じてもらうには どうしたらよいか?ということを生徒といっしょに考えます。

水戸女子高校吹奏楽指揮者木村達也先生

またこれはすでに取り入れているバンドも多いかもしれませんが、通しを録音してその場で聴き直す、ということもしています。テンポ、音 程、必ず合わせなければいけない和音や、曲として物語が浮かび上がってくるか等を、バンド全体でチェックし改善ポイントを話し合います。 ここでもイメージを全員で共有することを大事にしています。

 

客観的な視点を持つということですね。

  そうですね。コンクールの審査員をやらせていただいた経験で、審査をする際オープニングのくだりを聞 いた時点で基準点を決めます。このバンドは70点だな、このバンドは80点だな、という具合です。そのあとの演奏によって、曲想がうまく表現できているな加点しようとか、テンポが安定しないな減点しよう、というふうに点数が上下し最終得点を決めています。   曲づくりはこの作業を逆算して考えます。基本的にはマイナスとなる個所を減らし、プラスとなる個所を増やしていく作業の繰り返しです。指揮者、演奏者が協力しながら問題点を見つけ共有する、改善策を考える、改善策を実行する、というサイクルを回していくことが重要だと思い ます。

 

選曲のこだわりについて教えてください。

水戸女子の演奏は、その年その 年の生徒の個性と密接に結びついています。曲もその代の個性にあったものを選曲しているので、元気な生徒が多い代はドラマティックに、のんびりした優しい子が多い代は穏やかな曲を選んだりすることが多いですね。 初心者が多い年は、前年にやった作曲者の作品から選曲するのもいいと思います。コードや表現方法等やはり作曲家によって癖がありますから、前年と共通点が多いほうが曲づくりをする上ではスムーズに進むのではないでしょうか。

 

指導者のみなさんへアドバイスをお願いいたします。

  機会があればぜひ一度学校にお越しいただいてご覧いただきたいのですが、僕が指導中に怒鳴ることはありません。そのかわりものすごく問いかけます。「今のはどう思った?」、「改善するにはどうしたらいいと思う?具体的に何をいつからどんなふうに始める?」といった問いをなげかけます。考える作業を繰り返す中で、生徒は自ら表現したいものはなんなのかを見つけ出し、多くの感動を呼ぶ音楽を創り上げることができるようになります。何より生徒がやる気を持って活動に取り組むので、部活動が楽しいと感じてくれることも非常に大きなポイントです。

水戸女子高校吹奏楽指揮者木村達也先生

 もちろん、いつもベクトルがピ タっと定まり全力で取り組めているというわけではありません。やはり折に触れ、音楽をやる目的は何なのか? 何をゴールとして設定しているのか? 現在地はどこなのか? ということを確認し、全体で共有しながら進めていくことも重要であると思います。指導者は技術面の指導だけでなく、生徒のやる気を引き出し問題解決力を育む支援者としての視点も持っていてほしいと願っています。どうもありがとうございました。

 

 

〜2011年3月11日、戦後未曽有の災害となった東日本大震災。水戸女子高校は校舎が閉鎖、吹奏楽部が使っていた練習場も崩落寸前であるとして立ち入り禁止となった。残された楽器は校長先生をはじめとする教員有志によってなんとか校外に持ち出したものの、瓦礫まみれとなってしまった。2011年度の水戸女子吹奏楽部は想像を絶する状況からスタートした。

 2ヶ月部活停止、打楽器の練習場が確保できない、そもそも部活動をやってよい時期なのか?等多くの不安や疑問を抱えながらも、周辺校の協力を経て必死に練習を重ねる中で出場が絶望視されていたコンクー ルにも出場。東日本大会まで勝ち進み、見事金賞を受賞し文字通り奇跡を成し遂げた。

 この奇跡は、まず活動を楽しむこと、組織や音楽を成長させるにはどうしたらいいのかを考えさせる木村先生の指導、常に感謝を忘れず音楽に没頭し続けた生徒たちの努力の賜物にほかならない。苦しみや悲しみを乗り越え、笑顔でダイナミックな音楽をファンへ届け続ける水戸女子高校吹奏楽部に心からエールを送りたい。〜

 


 

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木村達哉

木村 達也(きむらたつや)

武蔵野音楽大学卒業。水戸女子高等学校非常勤講師・吹奏楽部指揮者、木村音楽教室代表。練習の中から的確に生徒のモチベーションを引き出す手法に定評があり、多くの学校から講習会に招かれている。東京国際芸術協会優秀指導者賞、日本クラシック音楽協会優秀指導者賞、東日本吹奏楽大会指揮者賞、日本管楽合奏コンテスト指揮者賞ほか、受賞多数。

田中昌彦氏インタビュー
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